ルールと防具を考えるC

小林辰夫・廣畑徹(021230執筆)

今の全空連ルールではメンホーは危険です!

新しいメンホー

従来のメンホー

1.はじめに

今から数年前、メンホーを装着することにより、兵庫県や滋賀県の空手試合で、選手が記憶喪失を引き起こす重大事故がありました。昨年11月には奈良県で脳内出血という重大事故が起こりました。その他、このメンホーの開口部にて鼻骨骨折が発生し、東京では開放性鼻骨骨折を治療した医師からこのメンホーの改良の必要性を指摘した報告がなされており、プラスチック部分に歯が当たって前歯を折る事故は相当な数にのぼってます。

これらは、寸止めルールの徹底的な遵守あるいは、防具を強化する以外に解決策がありません。しかし、寸止めルールの徹底的な遵守というものが果たして可能でしょうか?30数年に及ぶ空手試合を見ても、寸止めのルールでありながら、加撃技が相手に当たらなかった試合があったでしょうか?結果的には一度もありませんでした。

基本的には寸止めではあるが、誤って攻撃が相手の顔面に当たった場合の安全具として面を装着しておきながら、予期せぬ衝撃どころか、装着していたがために防具の形状ゆえに、前歯を折ったり、鼻骨を折ったり、挙句の果ては脳障害まで引き起こしています。はたしてこれが安全具と言えるのでしょうか。

現在起こっている事故を振り返っても、通常の有効ポイントとして認められてきた技の範疇で起こっていることが見過ごせない重要な問題であり、全国の各地でこの面を着けて練習や試合をしている子どもたちの中で何十人何百人何千人の人が前歯を折っているのでしょうか。この面を着けることにより怪我をしないと信じた指導者の期待を裏切って・・・。

一日も早く具体的な対策を講じないと、今こうしている瞬間にも子供たちは大変な危険にさらされています。勿論、本人も指導者も保護者もその危険性を知らないまま、安全な用具であると信じて・・・。(小林辰夫 )

2.解説

現在、面の種類はどれぐらいあるでしょうか?全空連が使っているメンホー又は新メンホー、硬式空手の久高先生が開発したスーパーセーフ面、ウィニングが出しているアルファ面、そして、各団体が独自に開発した面など、何種類かあります。また、面の代表としては、日本拳法の鉄面もあります。これらは、目的と必要性があり、生まれてきたものであり、いろいろな長所と短所があります。

スーパーセーフ面

テコンドー面

テコンドー面

アルファ面

鉄面

Kプロテクター

皆様もご存知のとおり、メンホーは、全空連が採用しているものですが、寸止め用の防具であり、元来当ててはいけないものです。軽くて視界も良いのですが、衝撃に耐えるようにはできて いません。全空連ルールの試合において、発生する怪我の防止という目的から生まれたものであり、使い方を間違うと上記のような事故が起こります。これらはどのようなことが原因となっているのでしょうか。

理由1(選手の心理)
   まず、面をつけると相手に当ててはいけないという感情が
減少します。本来、面をつけても寸止め (極めるという意味)しなければならないルールであるにもかかわらず、面を装着すると安心感からか、ある程度は当ててもよいという気持がどうしても沸いてきます。止めても当ててもポイントが同じなら相手に与える影響が多いほど有利に戦えるのは当然のことです。当たり前のことですね。

よく当てられたから故意に当て返そうとする人がいますが、これはまだまだ精神的に未熟な人です。また、反対に、当てられても冷静に戦える人はすごい人です。しかし、メンホーを装着することにより、攻撃の技術力が向上したことは疑う余地がありません。でも、技術的に向上したからと言って、選手に後遺障害が残っては意味がありません。

   理由2(突きの技術的要素)

   拳を制御する気持があっても、防具をつけたときの全空連系ルールの突きは、力で押し込むのではなく、「寸当て」と形容されるように、ねじった突きを当たった瞬時に引き始めるので、突きの速さとあいまって、打撃の瞬間、局部が極端にへこむという特徴があります。そのために、防具の局部が瞬間的に相手の顔面を直撃しています。本来「寸止め」「寸極め」であるはずのルールがいつのまに「当てて引く」という慣習に定着したのでしょうか。

素面では鼻の打撲にしかならない怪我が、メンホーをつけることにより、プラスチック部分が鼻骨を直撃します。その結果、鼻骨骨折に至るケースが多発しています。確かに、ある程度はプラスチック部分に弾力性がなければ、反対に頚椎に打撃の影響が現れるのは必至ですが、装着したために怪我をしたというのは、防具をつける目的を逸脱したものであるといわれても仕方がありません。早急に、防具の形状と硬さ、素材を工夫する必要があります。しかし、恐らく、美津濃の開発陣とすれば「当らない」ということを前提に作っているのだろうと思います。

理由3(止める突きは途中から減速するので突ききってしまう)
   分かりやすい説明をしよう。もしゴルフボールの手前でクラブを止める打ち方をしようとします。このときあなたはスイングの途中から減速しませんか?飛ばすときと同じ速さのスイングでクラブを止められる人はすごい人です。宮本武蔵が竹刀を振った時に竹刀が折れたという逸話を聞いたことがありますが、これくらいの筋力と瞬発力が必要です。ですから、試合中の選手は100分の一秒でも相手より早く突きたい訳ですから、減速していては遅れます。その上に相手も前進してくるわけですから、攻撃が当たるのは当然のことです。

理由4(全空連ルールの矛盾)
   ルールの面から考えてみましょう。まず、中段攻撃は、寸止めと言えども、ある程度当てなければ、ポイントにはなりません。当てると言うより、当たってからすぐに引いたり、残身をとったりするのですが、カウンター以外は完全に止めると有効技とは認められません。道衣、身体にに当たらない中段の蹴技などは、寸止めルールといえどポイントになることは絶対にありません。反対にカウンターの直蹴りなどはある程度相手に当たらないと技術的にも制御できません。

それでは防具を必要とする上段攻撃についてはどうでしょうか?現行ルールでは防具を着用しても相手に当ててはいけない事になっています。しかし審判の慣習では「制御された攻撃」「極めのあった攻撃」を重点的に審判しているものの、試合の現状は、相手に対する打撃容認が相当見 受けられます。これらは、ルール上の解釈とは別に、ある程度「慣習」として容認されていますが、本来はルールの解釈上、認めることができないものなのです。そして、相手が痛がった時や血がでるなどした時に初めて反則(注意)が適用されます。

これは、ルールを考えるBでも書きましたが、運転者のみんなが道路を40キロで走ったら大変な混雑になるのに、事故を起こした時に「あなたは何キロオーバーですよ」とおまわりさんに怒られることに似ています。どうして、実情と規約のギャップがあるのだろうか?

だから、試合で当てられた時に、痛くもないのに「痛い」といえば「ゴネ得」で反則勝ちになってしまう。そういう試合は誰が見たがるんだろう。観客に分からないルールなんて今後、IOCに採用されるわけはない と思う。

寸止め空手の試合と良く似たものに剣道の試合がある。剣道も結構保守的だ。なぜ、右足を前に置くことを決めているのか?どちらに構えようが、人の勝手だ・・・と思うが、それはそうとして、剣道は寸止めする必要がない。思い切り打ち込む。でも、怪我はほとんどない。怪我をした場合、それは、選手個人の落ち度と見なされる。

寸止めの試合において、怪我をなくすためには、現行の試合形式に添ったルールに改定するか、メンホーを強化するか、また、それらの事を踏まえた上で新たな防具付のルールを構築するか、いずれかの方法しか道はないと思 う。